創作   いしぶみ

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洗濯機の音がいつもより変だと思うとさっきから落ち着かない。
ボーナスまでは未だ日にちが有りすぎるし、故障としたら手で
家族4人の洗濯物をやるなんて考えただけで気が遠くなりそうだ。

変な音はするけれど正常に働いていてくれるので、朝の戦場のような
時間が過ぎて後は洗濯物を干せば終わる一人の時間を新聞を見ながら
珈琲タイムとして一息入れている。

洗濯物は各自が脱ぐときに裏返して洗濯袋に入れて洗濯機に入れるように
頼んでは或る物の時々ずぼらな輩がいて丸めて這入っている。

昨晩は、午前様の主人を待って此方も午前様で陽当たりに居ると
無性に眠くなってくる。

「がらん」と云う音を立てて洗濯機が止まってシャキッとして立ち上がり
洗濯袋を一抱え出して見ると中に可愛らしい小石が一つ残っていた。

音の正体が判りホットしたのと同時に洗濯機の水槽がざらざらに成っている。

又やられたのだった。

男の子は本当に石が好きでズボンのポケットにまるで秘め事の様に綺麗な
小石を入れて遊びから帰って来る。
この前は捨てて終い、半日泣かれた記憶が蘇り小石を綺麗に拭いて机の上に
置いてあげる。

ベランダから這入る春の日射しを受けて名もない小さな石は輝いて拾って呉れた
主の帰りを待っている。

小さなこの石は誰の手に「いしぶみ」として小さな主から渡されたのだろうか・・・


*私の書いた短編「いしぶみ」です。
息子の幼い日思い出して・・・
今ベストセラーの「いしぶみ」 小山 薫堂箸 を読んで幼い男の子が
好きな女の子に自分の宝物として上げていた小さな石には沢山の思いが
籠められていたのではないでしょうか。